ちょっといい話

「フランスの田舎の家」


今回の「ちょっといい話」は弊社のお客様よりご投稿頂いたものを掲載いたしております。T様、お忙しい中、本当にありがとうございました。


2002年2月に37年間勤めた日本の会社を定年退職した後、縁があってフランスの会社に再就職し、2002年9月から1年1ヶ月間、オロロン・サント・マリー(以下、オロロンと略称)という町で暮らしてきました。
 
 この町はフランスの最も南西の端に位置する「ピレネー・アトランテック県」にある古い町です。県名からも想像されるように、県の西部は太平洋に面し、南はスペインとの国境を成すピレネー山脈に接している風光明媚なところです。
町の顔は町名にもなっている「サント・マリー寺院」です。12世紀の創建でユネスコの世界文化遺産にも指定されています。
 町には他に二つの教会があり、これら三つの教会を中心として旧市街を形成し、その外側に新興住宅街が広がっています。ピレネー山脈に向かって車を走らせると、あちこちに牧場が点在し、「アルプスの少女ハイジ」の世界そのままです。秋には羊の群が山を降りるのに何度も出くわしました。羊が道を横断し終わるまで、車を止めてのんびり待ったのも懐かしい思い出です。
 
 言語、習慣、食べ物など異国の文化に触れて、カルチャー・ショックを受けたことも度々でしたが、住生活についても、日仏の大きな違いを感じました。旧市街は4、5階建ての建物が軒を連ねて建てられていて、家と家の間の隙間が殆どありません。これはセキュリティ上の配慮かと思われます。庭は、あるとすれば裏側にあるのが普通です。前庭がある場合は、必ず高い塀で覆われており、いずれにしても、道からは中の様子が見えないようになっています。新興住宅地では、逆に、一戸一戸が200坪内外の広い敷地にゆったりと建てられていて、道行く人から庭が見えるようになっています。私は朝の散歩を日課としていましたから、四季折々の花を眺めるのが大きな楽しみでした。
 
 フランスの家の大きな特徴は、殆どが石造りだということです。外壁はモルタルで化粧されていて、中の石が見えないのが普通ですが、逆に、大きさの揃った石を外から見える様にきれいに並べて建てている家もあります。石造りの家は壁が厚いので、断熱と防音効果が高いのが長所です。私のアパートも壁の厚みが55センチあり、真夏でも部屋の気温が外気より10℃は低く、クーラーなしでも暑さがさほど気になりませんでした。
 
 屋根の形にも特徴があります。総じて屋根の勾配がきつく、寄棟や半切妻が多いのが目を引きました。特に、半切妻の屋根は他の地方では稀にしか見かけませんでしたが、オロロンではごく普通の形です。寄棟のなかには、屋根の裾が緩やかに広がっているものもあり、日本のお寺の屋根が連想されて、興味深く感じました。
 
 地震がほとんどないからということもありますが、旧市街は概して古い家が殆どです。築100年以上の古い家も決して珍しくありません。私のアパートも築50年を超えていました。会社の上司の家は、数年前に近くの古い家を買い取ったものですが、300年前に建てられた家だそうです。古いものをリフォームしながら、長い間使うことはこの国ではごく普通のことです。家具も祖父母の時代から代々使っているケースも珍しいことではありません。アパートから歩いていける距離に古物屋が四軒もあるのを最初は不思議に思っていましたが、フランス人が家具を買い替えるとき、新しい家具では調和が取れないので、部屋に合う中古品を探して買うと聞いて納得しました。因みに、国土交通省の統計によると、日本の家の平均寿命が30年であるのに対して、フランスでは86年だそうです。
 家を30年で建て替え、家具も新しいものにどんどん買い替える日本の風潮は、国の経済という観点からは消費の拡大に寄与しているのかもしれませんが、経済が低成長期に入った現在、良いものをメンテナンスしながら、長く大事に使うというフランス流のやり方を我々も見習うべきではないかと感じているこの頃です。